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うつ病への食事療法
うつ病と栄養
うつ病は心の風邪と言われますが、実際は脳の働きが悪くなっている状態で、うつ病=脳の不調なのです。
うつ病は一般的には休養、薬物療法、精神療法、環境調整などそれぞれの人にあった治療アプローチが必要ですが、うつ病全ての人において同一に必要なのが栄養管理です。
脳の働きに関わる脳内伝達物質もさまざまな栄養素を必要とします。
そのため、うつ病を治療するためには最低限の栄養バランスの維持が必要不可欠となります。
例えば、うつ病の病態に関わるノルアドレナリンやドーパミン、セロトニンなどの脳内伝達物質も元となるチロシン、トリプトファンなどのアミノ酸から作られています。
チロシンは肉類(鶏肉、牛肉、羊肉など)、カツオ節、タケノコ、牛乳、卵黄、ピーナッツ、アーモンド、バナンなどから効率的に摂取できます。
また、トリプトファンも上記食材に加え、大豆、のり、ごま、マグロ、チーズなどから摂取できます。
それぞれの栄養素の欠乏と摂取しやすい食物
栄養素 | 欠乏時の症状 | 含まれる食物 |
ビタミンB1 | 集中困難 | 豚肉、玄米、のり、タラコ、未精製の植物類 |
ナイアシン | 抑うつ気分 | 魚介類、未精製の植物類 |
パントテン酸 | ストレス脆弱性 | 肉類、魚介類、未精製の植物類 |
ビタミンB6 | イライラ、抑うつ気分 | 未加工・未精製の植物類、魚介類、バナナ、プルーン |
葉酸 | イライラ、抑うつ気分 | ホウレンソウ、葉野菜、レバー、大豆 |
ビタミンB12 | イライラ、抑うつ気分 | 肉類、魚介類、レバー、イクラ、ウニ |
ビタミンC | イライラ、抑うつ気分 | イチゴ、柑橘類 |
マグネシウム | 不眠、イライラ、抑うつ気分 | 緑色の葉野菜、ナッツ、種子 |
鉄 | 抑うつ気分、不安、意欲低下 | 赤身の魚・肉 |
亜鉛 | 抑うつ気分 不安、意欲低下 | カキ、ナッツ類、穀物の種子 |
飲酒と栄養不足に注意
飲酒時に摂るべきビタミンB1、ビタミンC、ナイアシン
アルコールは分解するときにビタミンB1が消費されますが、さらにアルコール自体がビタミンB1の体内への吸収を妨げ、不足しがちになります。
ビタミンB1欠乏状態が続くと、脚気やウェルニッケ脳症といった深刻な状態が出現するので注意が必要です。
また、アルコールの二日酔いで頭痛や吐き気を体験されたことのある人は多いと思いますが、その不快な症状はアルコールの分解経過にみられるアセトアルデヒドという物質の影響で起こります。このアセトアルデヒドを分解するのにビタミンCやナイアシンが活躍するため、飲酒時は積極的に補充しましょう。
ビタミンCは喫煙でも消費され、タバコ1本で体内のビタミンCが25mgも消費されると言われています。
鉄分の不足に要注意
鉄はもっとも不足しやすいミネラルの一つで、月経のある女性では特に不足しがちで、日本人女性の4割が鉄不足という状態です。
鉄不足の症状
鉄の不足によって、頭痛、顔色が悪い、疲労感、イライラ、意欲低下などの症状が出現します。
鉄の最大の役割は、赤血球中のヘモグロビンというタンパク質の成分となって、酸素を全身に運ぶのを助けています。
また、肝臓は体外から入ってきた毒物を解毒する働きがあり、そのときP-450という酵素が活躍しますが、P-450も鉄を多く含んでいます。
このように鉄不足は体のエネルギー不足と解毒がすすまないことから、自律神経の乱れや体調不良を引き起こすのです。
食べ物に含まれる鉄分には、大きく分けてヘム鉄とノンヘム鉄の2種類があります。
ヘム鉄は肉や魚、卵などの動物性の食物に多く、吸収率も約30%もありいいとされています。
ノンヘム鉄のは野菜に多く含まれますが、ノンヘム鉄の吸収は一緒に食べた食べものの影響を受けやすく、吸収率は数%とかなり少なくなる場合もあります。
鉄の摂取を補う食物
ヘム鉄は赤身の肉やレバー、サンマ、カツオ、マグロといった赤身の魚や、血合いの部分に多く含まれています。赤身の肉や魚を多く食べるといいでしょう。
野菜の中では、パセリ、豆類、かぼちゃの種などに多く含まれていますが、前述した吸収されにくいノンヘム鉄です。
ただし、ノンヘム鉄はビタミンCやクエン酸と摂取することで吸収率が上がるため、オレンジジュースなどビタミンCやクエン酸を多く含む食物と一緒に食べると良いでしょう。
亜鉛不足に要注意
亜鉛は全ての細胞にあり、100種類以上の酵素の化学反応に関与しています。
それだけ重要な亜鉛ですが、不足しやすいため身体的、精神的にもっとも頻繁に影響を及ぼします。
亜鉛が不足する理由
現代の食事では、高度に精製された減量を使用して作られたインスタント食品、白パン、菓子パン、ケーキ、砂糖などを摂取する機会と摂取量がふえています。
原料を高度に精製する課程で、亜鉛などの微量栄養素が取り除かれてしまいます。
さらに、亜鉛と結合し、不溶化することで腸管からの吸収を妨げているフェチン酸という物質があります。フェチン酸はパンやインスタント食品に大量に含まれているのです。
亜鉛の重要性
神経細胞や、伝達物質や性ホルモンなどをつくる化学反応に亜鉛は欠かせません。
そのため、亜鉛が不足すると、脳の発育、性的な発達に影響がでるだけでなく、食思不振、味覚異常、嗅覚異常、イライラ、疲労感、集中困難、抑うつ気分などの症状も出現します。
亜鉛の摂取を補う食物
亜鉛はナッツ類、穀物の種子、肉類や魚介類に豊富に含まれます。特にカキには100g(約カキ1個)あたり13mgの亜鉛が含まれています。
タウリンの働き
GABA(ギャバ)と性質が似ていて、脳の興奮やイライラを抑えてくれるのがタウリンです。タウリンはアミノ酸の一つで、人の体内でも作られるため、必須アミノ酸(体内で作れないアミノ酸)には分類されていません。しかし、体内では必要としている量の10%も作ることができないため、結局食べ物から摂取しなければなりません。
タウリンはコレステロール値を低下させ、心疾患のリスクを軽減し、高血圧を抑え、脳の過剰な興奮を抑える働きがあります。
タウリンは体内ではシステインやメチオニンといった含硫アミノ酸から作られますが、この時に重要な働きをするのはビタミンB6です。そのため、ビタミンB6不足はそのままタウリン不足に繋がります。
ビタミンB6含有量の多い、肉類、魚介類、納豆、キャベツ、バナナ、酵母などに多く含まれます。
タウリンは、サザエ、イカ、カキ、マグロ、カニ、タイ、タコ、イワシなどの魚介類に多く含まれます
タウリンは熱では壊れず、水に良く溶けるため、魚介類の鍋物の汁から効率よく摂取できます。
抗うつ作用のあるメチオニン
必須アミノ酸の1つであるメチオニンには、気分を高める効果があるといわれています。
メチオニンはビタミンB12の作用により、ATPというエネルギー物質と結合し、S-アデノシルメチオニンという物質に変化します。
アメリカではS-アデノシルメチオニンは抗うつサプリメントとして販売されており、ベストセラー商品になっています。
S-アデノシルメチオニンを内服すると脳内でのセロトニンレベルが高まることが確認されています。
メチオニンとビタミンB12の豊富な食べ物を食べることで、脳内でS-アデノシルメチオニンは作られるのです。
メチオニンを多く含んだ食べ物
大豆、ごま、ヒマワリの種、カシューナッツ、シラス干し、カツオ節、マグロ、ヒラメ、キンメダイなどの魚介類です。
ビタミンB12は、肉類(特にレバーと腎臓)、魚介類(アンコウの肝、スジコ、タラコ、カズノコ、アサリ、カキ、ハマグリ、シジミなど)、鶏卵、乳製品に多く含まれます。
特にシジミの味噌汁にはビタミンB12が多く含まれておりおすすめです。