増える認知症
1907年にアルツハイマー病が報告され、日本政府の推計では、2025年には、認知症の方が約700万人にのぼるとされています。
そのため、認知症への理解を深めるとともに、家族が関わり、環境を整えて支えていく仕組みが必要となっています。
その中で、認知症の進行を予防できることは経過に大きくかかわります。
認知症のタイプ別割合
認知症のタイプ別での患者数の割合は
アルツハイマー型認知症 約45%
脳出血・脳梗塞など脳血管障害による血管性認知症 約22%
幻視やうつ状態、パーキンソニズムのみられるレビー小体型認知症 約18%
混合型認知症 約6%
その他の認知症 約8%
といわれています。
アルツハイマー型認知症の発症機序
アルツハイマー型認知症の病理学的特徴として、アミロイドβを主な構成成分とする老人班の出現、神経原線維変化、ニューロン死などが関係しているといわれています。
その原因として、Aβの凝集沈着が神経原線維の変化やニューロンの消失、認知機能の低下を引き起こすとされる「アミロイドカスケード仮説」が有名です。
Aβがアルツハイマー病の病因因子として認知されていますが、1992年に「Aβ仮説」、1998年に「可用性Aβオリゴマー仮説」と提唱され、Aβ凝集過程の中間体である「可溶性Aβオリゴマー」が病態に関与するという考えが広まりつつあります。
アルツハイマー型認知症の治療薬
現在日本で承認されているアルツハイマー型認知症の治療薬は、コリンエステラーゼ阻害薬のアリセプト®/ドネペジル、レミニール®/ガランタミン、イクセロン®、リバスタッチ®/リバスチグミンです。また、NMDA受容体拮抗薬のメマリー®/メマンチンがあります。
しかし、これらのお薬は対症療法であり、アルツハイマー型認知症の発症そのものを抑えることが難しく、現在もお薬の開発が進んではいますが、まだアルツハイマー型認知症の発症を抑えるお薬はできていません。
このような状況の中で、アルツハイマー型認知症への漢方治療が注目されています。
抑肝散がアルツハイマー型認知症を含む認知症20~80%でみられる興奮・不穏状態などの認知症の周辺症状(BPSD)を改善させたという報告がります。
また、抑肝散加陳皮半夏の研究から認知機能の改善を促すなどの認知症の改善を示唆する報告もあります。
さらに人参養栄湯が認知機能を維持する効果として注目されています。
人参養栄湯の薬理学的効果
陳皮のヘスペリジンやナリルチンが活性本体として、エミリン形成不全と脱髄の回復に有効であるといわれています。
人参養栄湯の構成生薬である陳皮のヘスペリジンやナリルチンが、脱髄の回復に関係するFcRγ/Fynを活性化させることで、結果的にオリゴデンドロサイト前駆細胞を、ミエリン形成可能なオリゴデンドロサイトへと分化させると考えられています。
このような作用機序で、人参養栄湯は変性したミエリンを回復させたり、シナプスの消失やその機能障害、ニューロンの消失を阻止することで、脳機能を守っていると考えられています。
アルツハイマー型認知症と人参養栄湯の研究
軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の方を対象として、ドネペジル単独効果不十分の方への人参栄養湯を投与した比較試験では、人参栄養湯を併用した群の方が認知機能が維持、抑うつ気分の改善がみられたとの報告があります。
まとめ
早期のミエリン修復がアルツハイマー型認知症の治療において、重要な役割を果たすと考えられており、ミエリンに働きかけ、脳機能を守ることが示唆さる人参養栄湯が注目されています。
生薬に陳皮が配合されている、人参養栄湯や抑肝散加陳皮半夏などは認知症の周辺症状の改善のみならず、ミエリン変性の回復によるアルツハイマー型認知症の治療効果が期待できるかもしれません。