発達障害について知っておきたいこと【ASD,ADHD】⑤【薬物療法編】

発達障害

大人で受診することの多い発達障害【薬物療法編】

発達障害の治療においては、基本的には環境調整、支援の強化と精神療法が中心になり、薬物療法は補助的になると考えます。

実際、発達障害の中核症状に対して、直接的な効果が認められているのは、日本ではADHDに対するストラテラ(アトモキセチン)とコンサータ、リタリン(メチルフェニデート)だけであり、あとは周辺症状に対する対症療法となります。

しかし、薬物治療がきっかけとなり、医療につながり、調整がうまくいき、生活が改善する方たちもいます。

自閉症スペクトラム障害が中心となる方への薬物療法

自閉症スペクトラム障害の方は薬物への反応が過敏なことが多く、医療品の添付文書に記載されているよりも少量から開始し、より慎重に増量する方がいいでしょう。

苦痛な体験を訂正しにくいため、一度副作用が出ると、その恐怖感が固定化し、その後の治療に大きな影響を及ぼしてしまいます。

自閉症スぺクトラム障害と抗うつ薬

自閉症スペクトラム障害の病態に関してはセロトニン系の関与が指摘されており、二次障害で抑うつ、不安などの症状が多いことと、反復した常同的な動作・思考という強迫性がみられることから、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が自閉症スペクトラム障害の治療薬として治療効果が検討されてきました。

一部の症例には、特に強迫性や二次的な抑うつ、不安などに効果があったという報告もあり、そのような症状が目立つ場合には使用することもあります。

SSRIだけでなく、SNRIや三環系、四環系抗うつ薬も有効な場合があります。

自閉症スぺクトラム障害と抗精神病薬

抗精神病薬が、自閉症スペクトラム障害の不穏・興奮状態に対して使用される場合があります。

日本ではオーラップ(ピモジド)が小児の自閉症に対して認可されていましたが、2016年にはリスパダール(リスペリドン)とエビリファイ(アリピプラゾール)が小児期(原則6歳以上18歳未満)の自閉性スペクトラム障害に伴う易刺激性に承認を得ています。

自閉症スペクトラム障害の方は、幻覚、妄想などの精神病症状が出現する場合もあり、抗精神病薬を上手に使用することで、症状を軽減できます。

自閉症スぺクトラム障害と気分安定薬

感情のコントロールが困難な場合には、デパケン(バルプロ酸ナトリウム)をはじめとする気分安定薬が使用されており、ラミクタール(ラモトリギン)もよく使用されます。

それらの気分安定薬は躁うつ病のような気分の浮き沈みが激しい場合に有効であることがあります。

通常の薬剤に恐怖心や抵抗感が強い場合は、漢方薬を使用することもあります。

自閉症スぺクトラム障害と漢方薬

気分の不安定さ、体調不良、自律神経系の乱れがあるような場合には、柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、補中益気湯等を使用します。

女性に対しては、加味逍遥散、当帰芍薬散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸などが使用されることが多いです。

ADHDが中心となる方への薬物療法

2012年にストラテラ(アトモキセチン)が、2013年にコンサータ(メチルフェニデート)が18歳以上のADHDに対する保険適応の認可を受けています。

コンサータ(メチルフェニデートの放出制御型の徐放錠)は中枢神経刺激薬と呼ばれる薬剤のひとつで、効果が約12時間持続するように設計された特殊な剤型で1日1回朝に投与します。

脳内の特に前頭前野や前頭葉眼窩面で、ドーパミンおよびノルアドレナリントランスポーターに結合し再取り込み阻害することで、シナプス間隙のドパミンおよびノルアドレナリンを増加させ、「やるべきことが手につかない」などの実行機能障害や「目の前の誘惑、報酬に飛びついてしまう」などの報酬系機能障害などに対して、効果を発揮します。

コンサータは服用しだして比較的早期に効果が分かり、継続するか増量するかの判断がしやすいのが特徴です。

しかし、中枢神経刺激薬であるため、薬剤乱用・依存の傾向のある人や、統合失調症や躁病の可能性がある人には基本的には使用しない方がよいでしょう。

また、チック症状を増悪させることがあるので、注意が必要です。

心血管系の病気の既往がある人は主治医に伝えておきましょう。

副作用は食欲減退が多く、動悸、不眠、悪心、口渇、頭痛などが見られることがあります。

ストラテラ(アトモキセチン)は非中枢神経刺激薬で、ノルアドレナリントランスポーターと結合して、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、前頭前野のノルアドレナリンとドパミンの伝達を増加させ、実行機能障害などを改善するといわれています。

2~3週後に効果が出始め、効果判定には8週ほど必要となることもあり、80~120㎎の十分量を使用してから効果判定をした方がよいでしょう。

副作用としては悪心、食欲減退、傾眠、口渇、頭痛などが見られることがあります。

ストラテラ(アトモキセチン)の利点(コンサータと比較した場合)

ストラテラは一度効果が出始めると、オン、オフの切れた感じがなく、一日中効果が続き、非中枢神経刺激薬であるため、依存・乱用の懸念が極めて低いことが挙げられます。

統合失調症や躁病の可能性がある人に使用しても症状悪化させるリスクが低いといわれています。(それでも注意は必要です)

チックのある人にも症状を増悪させにくく、使用しやすいです。

小児では自殺関連行動の報告があり、使用時は注意深い観察が必要です。

コンサータを選択する場合

コンサータを優先して選択するのは、心血管系などの身体化的合併症や、精神作用物質への依存、重度のうつ病、統合失調症、躁病、てんかん、チック症状などの精神科的合併症がなく、夜間や早朝には大きな問題がなく、早期の治療効果が必要な場合です。

自己評価の改善の重要性

自閉スペクトラム症もADHDも、自己評価の低下から、うつ病や不安障害が併発することが多いのです。

絵が得意だったり、発想が素晴らしかったり、将棋や囲碁が優れていたり、得意なな分野や、特別な才能が隠れていることも多く、その才能を素直に評価し続けるだけでも、自己評価の低下はかなり改善します。

自己評価の改善は生活における様々な場面で、情動面、行動面の改善に影響し、生活しやすさにつながります。

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